2009年02月12日

小説 STAR OCEAN 2 〜 ネーデ編 第五章(2)

   2 最後の真実 〜フィーナル(3)〜

「ハニエル、客だぜ」
「客のようだな、ミカエル」
 男たちは姿形がとてもよく似ていた。がっしりと筋張った体格。コートのようなゆったりとした服に、その上から肩当てや胸当てを身につけた出で立ち。彫りの深い容貌から頬の痩《こ》け具合まで同じとくれば、このふたりを瞬間的に見分けるのは容易ではない。ただ、ミカエルと呼ばれたほうが燃え立つように逆立った赤い髪であるのに対し、ハニエルは鶏冠《とさか》のように刈り取られた青い髪をしていた。
「お前は……」
 クロードはその鶏冠頭に見覚えがあった。最初にフィーナルへ乗りこんだときに現れた十賢者のひとりだ。そういえば、あのとき彼が腕の装置で指示を送っていた相手の声は、このミカエルのものではなかったか。
「久しいな、小僧。性懲りもなく、また父親の仇討ちとやらに来たのか」
 揶揄するように言うハニエルに、クロードは拳を固める。
「落ち着くんだ、クロード」
 背後からエルネストが諫《いさ》めた。
「わかってますよ」
 クロードは拳を下ろし、深呼吸をしてから、毅然とふたりを睨みつける。
「僕らが用があるのはルシフェルとガブリエルだけだ。けれど、邪魔をするというのなら容赦はしない」
「容赦はしない?」
 そう繰り返してから、ミカエルは突然声をあげて笑いだした。怒号のような笑い声だった。
「こいつは傑作だぜ。てめぇ、本気《マジ》で言ってんのか?」
「なにをっ……!」
「泣きベソかきながら暴れてたボーヤがよく言うぜ。おとーちゃーんってな。がっはっはっは。てめぇはホントに笑かしてくれるぜ」
「なんだミカエル。お前もあのとき見てたのか」
「おうよ。モニタで見てたが、ありゃ爆笑モンだったな。今でも思い出しては……」
「黙れっ!」
 クロードが一喝して剣を抜き放った。
「おい、またキレたぜ」
「ったく。とことんさみー野郎だ」
 ミカエルはわざとらしく肩をすぼめ、寒そうに身体を震わせてハニエルとふざけ合う。
「あなたたちには、ひとの心がないの?」
 そこへ、レナがクロードの横から進み出た。
「いくら創られた人間だからって、心はちゃんとあるはずよ。なのに、どうしてクロードのこころの痛みをわかってあげられないの? どうしてそんなふうに笑い飛ばすことができるの?」
 その言葉に、ミカエルたちは急に静かになった。露骨な笑いは消え、居心地の悪そうに目配せをしている。
「……おい、ミカエル」
「ったく。どいつもこいつもさみー奴らだ。凍えちまわぁ」
 ミカエルはそこでまた、ニヤリと口許を曲げた。
「俺様があっためてやるよ」
 言うが早いか、ミカエルの周囲に炎が巻き起こり、彼はそれを纏《まと》いながら天高くへと舞い上がった。炎の塊と化したミカエルは紅蓮の尾を曳きながらぐんぐん上昇していく。
「ふふ。ミカエルの灼熱のステージにようこそ。紅の華《スピキュール》をとくとご覧あれ」
 ハニエルが宙に浮いてクロードたちとの距離を取る。そうしている間にもミカエルは上昇を続け、ついには星ほどの大きさにまでなった。
「いったい何が始まるんだ?」
「見て。降りてくるわ!」
 白い空に輝く紅の星が急下降を始めた。空気との摩擦で巨大な隕石のように猛然と落下してくる。
「離れるんだっ!」
 八人がバラバラに散開しようとしたときには、既にミカエルは目前まで迫っていた。彼はそのまま白い床に衝突する。衝撃と轟音、そして炎の洪水。白い世界が一瞬にして真紅に染まった。ミカエルを中心として同心円状に炎の渦が広がっていく。それは、蕾から今まさに花弁を開こうとする紅の華を思わせた。炎と熱の激流に彼らは成す術もなく押し流され、その身を灼かれた。
 炎が収束し、中心にいたミカエルは膝と手をついた恰好で地面に蹲っていた。煙を上げる巨体をのそりと起こし、悠々と周囲を見渡す。
「あったまっただろ?」
 白い床に倒れていた人間たちもどうにか立ち上がろうと、腕をついて起き上がる。誰かが回復呪紋を唱え、光の粒が降り注いで彼らを癒していく。
「ちくしょう。とんでもねぇ技だ」
 焼け焦げて黒煙をあげる白衣を脱ぎ捨てながら、ボーマンが言った。
「今度はこっちからだ」
 先陣をきってミカエルに向かっていったのはクロード。それにディアスとエルネストも続いた。ミカエルは振り下ろされたクロードの剣を避けるでもなく、右の手甲で軽々と受け止め、振り払った。ディアスの太刀筋はあっさり見切って躱し、エルネストの鞭は先端をつかんで逆に相手を引き寄せ、殴りつけた。ボーマンが丸薬を投げつけ、オペラが光弾を放つ。
「しゃらくせぇ!」
 ミカエルが気合いを放つと丸薬も光弾もことごとく弾け飛んだ。執拗に斬りかかるディアスの頭を鷲掴《わしづか》みにして、鳩尾《みぞおち》に思いきり拳を叩き込んだ。クロードを蹴飛ばし、エルネストを放り投げて床に叩きつける。セリーヌが放った呪紋は涼風がごとく受けて微動だにしない。
「弱ぇ。弱ぇぞ、てめぇら。この程度で俺様とやり合おうなんざ、十億年早ぇんだよ!」
 ミカエルが嘲るように言った。ハニエルも空中で嫌らしい笑みを零したまま、戦況を眺めている。
「くそ……なんて強さだ」
 クロードは立ち上がって歯を軋ませた。たったひとりが相手でこんなに手こずっていては勝機は乏しい。
「けっ。くだらねぇ。とっとと始末をつけちまうか。……いいだろ、ハニエル?」
「好きにしろ」
 ミカエルが再び炎を纏って飛び上がった。あっという間に白い空の彼方へと上昇し、そして降下してくる。どこに落ちてくるか予測できない上に炎が広範囲に拡散するとあっては、どこへ逃げようともほとんど無駄なのだ。地面に衝突した炎の塊は灼熱の洪水を巻き起こし、彼らに襲いかかる。鮮やかな紅の華の中で人間たちはもがき苦しみ、そして倒れてゆく。
 ミカエルが先程と同じようにあたりを見回す。彼らはまだ力尽きてはいないものの、最初のようにすぐに起き上がることはできなかった。一度は呪紋で回復したとはいえ、二度も強烈な炎に晒《さら》されては、さしもの戦士たちも衰耗《すいこう》は否めない。
「あと一息ってとこか。悪ぃが一気にいかせてもらうぜ。……これで終わりだぁっ!」
 ミカエルが三度目の上昇を始めた。クロードがレナと支え合いながらどうにか立ち上がり、上空の赤い星を振り仰ぐ。万事休すだった。
「どうしたら……いいんだ」
 そう呟いて、ふと前を向くとそこにはノエルがいた。足を組んで床に座り、異国の僧侶のように目を伏せてぶつぶつと何かを唱えている。
「ノエルさん?」
 クロードが呼びかけても、彼はこちらを向こうともしない。左手を臍《へそ》の下に置き、右手を顔の前に突き立てて一心不乱に詠唱している。そうしている間にも上空の星はどんどん近づき、大きくなってゆく。しかも。
「……まずい。こっちに向かってきてる。ノエルさん、危ないから逃げてください。……ノエルさん!」
 だが、ノエルはいっこうに応じない。深手を負っている上にレナも連れている手前、彼のところに行くのは無理だ。至近距離であの炎を浴びれば、自分もレナも無事ではすまされない。炎の塊が間近に迫っているのを上目遣いで見ると、クロードはついにノエルを諦めて、レナを腕に抱いたままその場を離れた。
〈人は地に法《のっと》り、地は天に法り、天は自然に法る〉
 そのとき、クロードの脳裏になぜかノエルの唱える言葉が直接響いてきた。
〈天籟《てんらい》を聞き、忘我の境地に達すれば、人は自然へと帰依《きえ》する。我は世界を支える大地なり。我は世界を覆う天なり。我は絶えず流れ落つる水なり〉
 ミカエルが今まさにノエルの頭上に落ちようとしていた。クロードが最後の警告を発しようと声を張り上げかけたそのとき、ノエルの身体から強烈な光が放たれた。
〈──我は大地に座したる大岩なり〉
 あまりの眩しさに、クロードは思わず腕で顔を覆った。光は何度か明滅したのち、すぐに消滅する。閉ざされた視界の中でクロードは不思議に思った。ミカエルはもうとっくに地面に衝突しているはずなのに、いつまでたっても炎の渦はやってこない。それどころか衝突の音さえしない。腕を下ろして、そっと前方に目を遣る。そこには信じがたい光景が広がっていた。
 十賢者よりさらにふたまわり以上も大きな岩の塊が、ミカエルの体当たりを防いでいた。いや、それはただの岩ではない。人のかたちをした岩の人間《ゴーレム》だ。両手を突き出して、いまだ燻っているミカエルの躯を全身で受け止めている。
「あれは、いったい?」
 茫然と見つめるクロードに、ゴーレムはわずかに首を動かし、岩に穿《うが》たれたふたつの穴でこちらを見た。岩だけに表情は変わるはずもなかったが、その無表情さがかえって彼の正体を気づかせることとなった。
「まさか……ノエルさん?」
 ノエル・ゴーレムは力強く頷き返すと、ミカエルをむんずと掴みあげて放り投げた。投げ出されたミカエルは空中で体勢を立て直し、地面に着地した。
「てめぇ、お、俺様のスピキュールを受け止めただと?」
 憎々しげに睨みつけるミカエル。ノエルはのそりと岩の身体を動かし、ミカエルと向き合う。
「……ざけんじゃねぇぞぉッ!」
 すっかり頭に血がのぼったミカエルは猛然とノエルに突撃していく。かくして大男ふたりの大格闘劇が始まった。
 ミカエルは矢継ぎ早に重い拳を繰り出していったが、ちっぽけなクロードたちを相手にしていたときとは訳が違う。堅固な岩盤そのものである胸板はミカエルの攻撃にもビクともしない。ノエルは悪ふざけをする子供を戒めるようにして拳を受け止め、そのまま手首をひねって吊し上げた。無防備になった腹に膝蹴りを叩き込み、押し潰すように床に叩きつけた。
「むう。あれではミカエルも分が悪いか。……仕方ない。加勢してやろう」
 ハニエルが床に降り立ち、相棒のところへ向かおうとする。ところが、目の前をいくつもの光弾が横切り、進路を遮った。
「あんたの相手はあたしたちよ」
 ハニエルの横には、光弾を放ったオペラとボーマンが身構えていた。その背後ではディアスやエルネストたちがレナの治療を受けている。
「形勢逆転だな」
 ボーマンがニヤリと笑う。ハニエルは怒りの形相に顔を歪ませた。
「調子に乗るな、クズどもが!」
 右手を突き出すと、そこから恐ろしい光の砲撃が放たれた。オペラたちはすかさず避けて、鶏冠頭の大男に敢然と立ち向かっていった。
 一方、ノエルとミカエルの戦いは意外に早々と決着がつこうとしていた。ノエルは圧倒的な腕力で相手をねじ伏せ、全体重をかけて動きを封じる。そして彼の合図を受けてクロードが、まるで刑の執行人《エクスキューショナー》のように、ゆっくりとミカエルの前に歩み寄った。その手に握られたセイクリッドティアが燦然と煌めく。
「てっ、てめぇ……!」
 ゴーレムにのしかかられて身動きのとれないミカエルは、首だけ持ち上げてクロードを睨む。威嚇する虎のように目をぎらぎらさせ、歯をむき出しにしている彼を、クロードは無機的に見下ろした。怒りも憐れみも、一切の感情を表さずに。
「最期だ」
 一言そう呟いてから、剣を振るう。首筋から鮮血が噴き出し、ミカエルは絶命した。
 クロードが剣を収める。ゴーレムは、事切れたミカエルから巨体を動かして離れる。そのとき、岩の身体が急速に縮み、やがて元のノエルの姿へと戻っていった。ノエルは完全に自分の姿が戻ったことを確認すると、すぐに倒れこむようにして地面に伏した。
「ノエルさん、大丈夫ですか?」
「……ちょっと大丈夫とは言いがたいですね……」
 ノエルは仰向けになり、苦しそうに息を切らせた。顔は蒼白で、玉のような汗がいくつも浮いている。
「予想以上に精神力を使ってしまいました。もともと無理のある術ではあったんですが」
「けど、おかげで助かりました。あのままだったらどうなっていたか……」
 クロードは横を向いた。視線の先でミカエルの骸が霧散するように消えていく。
 ノエルも静かにクロードを見つめていた。消えゆく敵の様子をじっと見つめる青い瞳と、その奥に宿る大きな愁いを。ミカエルの首を斬るときに見せた非情な表情の、理由と決意はそこにあった。
 残るハニエルも戦士たちの集中攻撃を受けて、徐々に追い込まれていった。彼もミカエルに負けず劣らずの実力を誇っていたが、いかんせん相手の数が多すぎた。鋼の肉体も剣で切りつけられ、銃弾を浴びせられるうちに弱っていく。拳や蹴りや砲撃での応戦も追いつかなくなり、次第に疲弊し動きが鈍る。持久戦のような様相を呈してきた中で、ハニエルは最後の賭けに出た。
 周囲のディアスやボーマンを回し蹴りで牽制《けんせい》しておいてから、ハニエルは空中に躍り上がった。そして両手を足許に突き出し、戦士たちをまるごと呑み込んでしまうほどの砲撃を放った。それは砲撃というよりほとんど滝のようだった。光の滝は床に到達すると激しく飛沫をあげる。仕留めたと思って口の端をつり上げた刹那、背後に影が現れた。
「なにぃ!?」
 振り返るとそこにはディアスがいた。剣が振り下ろされ、ハニエルは背中を裂かれた。地面へと落下し、腰砕けのように着地する。そこへさらにボーマンが拳を固めて勇ましく突進してきた。ハニエルが慌てて繰り出した拳は肩を掠めて空をきる。
「桜花連撃ぃぃぃっ!」
 懐に潜ったボーマンは怒濤の勢いで分厚い胸板に拳を叩き込んでいく。胸当てが砕け、服が破れて引き締まった上半身がむきだしになる。その肉体をえぐるように続けざまに拳を打ち込むと、ハニエルの身体は衝撃で大きく揺さぶられる。そしてボーマンは止《とど》めに渾身の力でボディブローを放った。籠手《こて》のはめられた拳が腹に突き刺さる。ハニエルの口から血の塊が吐き出された。
「ご……ごんだあずでば……げぼぉっ!」
 ボーマンが腕を抜いた。またひとしきり血を吐いて、ハニエルは前のめりに倒れる。地面に頭から突っ伏した直後、その身体はふっと消滅した。
 主がいなくなると、部屋の景観が一変した。白い世界は古くなったペンキのようにぼろぼろと剥がれ落ち、そこから荒削りの石壁が、つるつるの床が姿を現した。ちょうど最初に三人の十賢者と戦ったときと同じような部屋だ。向かいの壁には大きな扉が既に口を開けている。
 八人は部屋の中央に集まり、無事を喜び合った。だが、これから先に進もうとしたとき。
「僕はここに残ります」
 ノエルは言った。先程よりは顔にもいくらか血の気が戻っていたが、それでも無理な術を使った反動は大きいらしく、まだ歩くことさえ辛そうにしている。
「このまま一緒に行っても足手まといになるだけですから。申し訳ないけれど、少しだけ休ませてほしいんです」
「それは構わないけど……こんなところにひとりで残るなんて」
「心配ありませんよ。ここに来るまでに敵はあらかた片づけたし、市長も間もなく来る頃でしょう。僕は後から市長を連れて駆けつけます。必ず」
 ノエルは毅然とクロードたちを見返した。たとえ衰弱していても、その意志には一片の揺らぎもないようだった。
「わかりました」
 クロードが了承した。
「後で、待ってますから」
「ええ。必ず行きます」
 互いに言葉を交わすと、クロードは潔く背を向けて扉へと歩いていく。仲間たちも何度か振り返りつつ彼の後についていった。
 七人が扉の向こうに消えると、ノエルは急に脱力したように床に座りこみ、そのまま仰向けになった。そうしてゆっくりと目を閉じ、深い眠りについた。


 複雑な仕掛け扉をやっとのことで解除し、覚悟を決めてその部屋に入った。ノエルと別れてからここまで、一度も敵と遭遇しなかったのがかえって不気味だった。
 そこはまた趣の異なる空間だった。床には灰色の石畳が敷き詰められ、部屋の中央を真紅の絨毯がまっすぐ伸びている。壁もやはり灰色の煉瓦を積み上げたもので、ほのかに灯った燭台が等間隔に据え付けられている。絨毯の脇には頑丈そうな石柱が並んでいたが、支えるべき天井はやはり闇に包まれて見えない。振り返れば、彼らが今入ってきた扉もいかめしい鉄扉に変わっていた。どこかの王宮に迷い込んでしまったような気分だった。
「ようこそ、我が宮殿へ」
 絨毯の赤い帯の終点、燃え立つような色の緞帳を背景にして、豪奢な玉座があった。そこに大儀そうに腰掛けているのは。
「ルシフェルか」
「いかにも」
 金色《こんじき》の肘掛けに肘を立てて頬杖をつきながら、銀髪の男は応えた。その指を埋めつくさんほどに飾られた指輪が燭台の明かりを受けて、ぎらぎらと輝いている。
「今宵の私は機嫌がいい。宴でも開きたい気分だ。どうだ、お前たちも加わらないか?」
 ルシフェルが指を鳴らすと、目の前に矩形《さしがた》の卓が現れた。純白のテーブルクロスの上には数多の山海珍味や高級酒が所狭しと並べられている。スープの皿は盛んに湯気を立ちのぼらせ、肉料理の皿からは香ばしい薫りが漂ってきた。
 クロードたちが無言で立ちつくしていると、ルシフェルはどうした、食べないのかとしきりに料理を勧める。
「お前たちには本当に感謝しているのだよ。下の階の邪魔者を全て消してくれたのだからな」
「邪魔者ですって?」
 オペラが声を荒げて言う。
「あんたの仲間でしょう」
「仲間? ああ仲間か。そんな風に呼んでいたこともあったな」
 ルシフェルがまた指を鳴らすと、卓と料理は跡形もなく消滅した。湯気や匂いまでも。
「どうやら料理はお気に召さないようだ」
 そう言ってから立ち上がり、威圧するように彼らを睥睨《へいげい》する。
「ミカエルやハニエルや他の連中は、曲がりなりとも生みの親たるガブリエルを崇敬《すうけい》していた。私があの欠陥品《バグ》を殺せば奴らは叛逆と見なすだろう。だから先に消えてもらった」
「なんだって?」
 クロードは狼狽した。レナも驚いて口を挟む。
「あなただってラン……ガブリエルに創られたのでしょう。どうしてそのひとを殺すなんて……」
「お前たちには一生解るまい。奴という存在がいかに私にとって屈辱であるか。私は永きに渡ってその屈辱に堪えてきた。だかこれで終止符《ピリオド》だ。奴を殺し、私は真の意味で完璧なる存在となって宇宙に君臨するのだ」
「そんなこと……させないわ。絶対に!」
「絶対に?」
 ルシフェルの姿がふっと消え、すぐさまレナの目の前に現れた。逃げようとするレナの手首を掴み上げ、無理やり顔に顔を近づける。
「さて、どうやって阻止してくれる? 私に見せてくれ」
「やっ……!」
 レナは顔を背ける。腕に力を込めてなんとかその手を振りほどこうとするが、逆に痣《あざ》ができそうなほど締めつけられてしまう。
「この野郎っ!」
 クロードとボーマンが左右から攻撃を仕掛ける。その刹那、ルシフェルの周囲に烈風が巻き起こった。レナを除く六人は抵抗する間もなく吹き上げられ、渦巻く風の流れに巻き込まれる。
「永遠に宙を舞い続ける風地獄。それが亡びの風の動機《モティーフ》だ。蒙昧《もうまい》たる貴様らには相応しかろう」
 竜巻の中心で、ルシフェルは高らかに言い放つ。その背には真紅の翼が生じていた。いや、それは翼というよりむしろ翅《はね》に近い。蝶のような透明な翅に赤い筋が血脈のように幾重も巡っている。彼がその翼を動かすと、竜巻はさらに勢いを増し、部屋全体に吹き荒れる狂風と化した。人間たちは奔放な風に翻弄され、もみくちゃにされて、石柱や壁に激突し、それでも止まらずに空中を彷徨い続ける。この場を打開しようとなんとか石柱にしがみつく者もいたが、不定期に流れを変える強風に耐えきれず、あえなく吹き飛ばされた。
 風の渦の壁に囲まれて、レナは逃げ場を失った。ルシフェルは怯える少女をすくい上げるように抱きかかえ、するすると宙へと昇っていく。
「さて、ここからどうやって私を阻止するのだ? さあ、やって見せてくれ」
「いやっ……放して!」
 レナが罠にかけられた小鳥のように腕の中で激しくもがく。ルシフェルは冷たい微笑を浮かべたまましばらくそれを眺めていたが、不意に顔を近づけて、耳の下あたりの首筋に湿った舌を押しつけた。その瞬間、全身を電撃のような衝撃が駆け巡った。頭が痺れ、それから覆いかぶさるようにして陶酔が訪れる。彼女の中に、何かが堰《せき》を切ったように流れ込み、充たしていく。蛭《ひる》のような舌先が執拗に首筋から鎖骨のあたりをなぞる。生暖かい感触に、レナの身体から力という力が抜けていった。目の前を火花のようなものがちかちかと行き交い、意識はどんどん遠ざかる。頭のどこかではまだ警句を発しているようだったが、怒濤のごとく打ち寄せる陶酔の波が彼女の意識をずっと奥のほうへと押しやる。首を仰け反らせ、腕と脚をだらりと下ろして、彼女は自らその身をルシフェルの腕に預けた。それが彼の能力であるとも知らずに。微睡《まどろ》んだ瞳はぼんやりと暗黒の天井を見つめ、口はしどけなく薄く開けている。
「レナっ!」
 渦の外側からクロードが叫んだ。彼は石造りの壁に背中をぴったりとつけ、指と踵を漆喰の隙間に食い込ませて身体を固定させていた。
「きさま、レナに何をした!」
「まだ何もしていないさ。少しばかり人間の本能とやらに働きかけてやっただけだ。ククク……」
 ルシフェルは渦の向こうのクロードに、これ以上ないというほどの侮蔑《ぶべつ》の視線を送る。
「これからが本番だ。大人しくそこで見ていろ。何もできぬ自分を呪いながらな」
 レナの身体を右腕一本で支え直し、左腕を自由にする。そして小指の先を自らの口に突き入れて、無雑作に噛んだ。鋭く尖った歯は指先の肉に食い込む。
「お前たちはラヴァーを知っているな? あれもかつては何の能力もない、ただの人間だったのだよ」
 小指を口から出してその先をまじまじと眺めながら、ルシフェルが語り始めた。
「そう……かれこれ三十七億年も前の話だ。本当に何の変哲もない娘だった。家族がいて、友がいて、幸福な日常があった。ところがある日、ひとりの男と出会ったことにより彼女の運命は大きく揺らいだ。ククク……。男は娘に自らの血を飲ませた。すると娘は一変した。男の命ずるままに親を殺し、友を殺し、そして世界を壊した。娘は男の忠実な下僕《しもべ》となったのだった」
 指先の傷口から赤黒い血が滲み出てくる。血。
「まさか……」
 それを見ていたクロードは戦慄した。これから起ころうとしていることの、あまりの恐ろしさに。
「勝利の美酒も独りではいささか味気ない。ラヴァーのいない今、新たな伴侶を求めていたのだが、どうやらこれで丸く収まりそうだ」
 ルシフェルは左手を広げてレナの鼻先に垂らした。レナは相変わらず恍惚《こうこつ》と、目の前に出された掌を眺めている。小指の傷から赤いものがひとすじ流れて、爪の先で雫をつくる。
「やめろぉっ!!」
 クロードはたまらず壁を蹴って飛び上がった。だがやはり、たちまち風に流されてあらぬ方向へと飛んでいってしまう。それを見てルシフェルはふん、と鼻を鳴らす。
「大人しく見ていろと言ったのに、わからん奴だ。まあいい。後でじっくりと拝ませてやる。ついでに奴の始末もこいつにつけさせるか。愛する者に殺されるのならさぞや本望だろう。ハーーッハハハ!」
 哄笑《こうしょう》するルシフェルの指から、ついに血液が滴った。紅の雫はレナの薄桃色の唇に落ち、口の中へと流れ込む。さらに一滴、また一滴と、爪の先端から次々に落ちていき、唇は紅《べに》を差したように赤く染まった。ルシフェルは狂ったように笑い続けた。彼の興奮に呼応して、周囲の渦が一層激しくなる。どこかで石柱が砕け、壁が崩れる音がしたが、彼には関係のないことだった。
 ルシフェルの腕の中で、レナの意識は完全に消滅しようとしていた。ゆっくりと目が閉じられる。同時に、鼓動は速くなっていった。


 とくん……とくん……とくん……とくん……。
 暗闇の世界に、鼓動の音ばかりが響いている。静かな、穏やかな世界。でも今はそうではない。
 自分とはまったく異なる何かが浸食してくるのを、彼女はひしひしと感じていた。もうすぐ私の意識は呑み込まれ、私は私でなくなってしまう。もはや浸食は止められない。このままじっと消えてゆくのを待つしかないのだ。
 それでいいの?
 自分の声がした。でも声の主は彼女ではなかった。こんなことが、前にもなかったか?
 ほんとうに、あなたはそれでいいの?
 そうだ。思い出した。あれはハーリーでのことだった。ユールを助けるためにザンドと戦って……あのとき私に話しかけてきた、不思議な声。
 ……いいわけないじゃない。
 彼女は拗ねたように答えた。
 だったら、あいつをなんとかしなさいよ。
「あいつ」の示すものが何なのか少し戸惑ったが、たぶん、彼女の意識を浸食し、呑み込もうとしている「あいつ」なのだろう。
 なんとかできるんだったら、とっくにそうしてるわよ!
 彼女は怒ったように言った。ほとんど八つ当たりだったが、とにかく不安をどこかにぶちまけたかったのだ。
 だいじょうぶ。私が力を貸してあげる。だから、あなたも頑張って。
 力を貸す?
 そう。これまでも私はあなたを助けたことがあるのよ。何度もね。あなたは気づいてないかもしれないけど。
 そうだったの……ごめんなさい。
 身に覚えのある彼女は素直に謝った。
 いいのよ。これは私の償いみたいなものなのだから。あなたの成長をこの目で見届けられなかった私が、唯一あなたにしてあげられること……。
 ……え?
 さあ、時間がないわ。想いを繋げて。みんなの想いが、みんなへの想いが、あなたを元の世界へ連れていってくれるわ。……ほら、聞こえない? みんなの声が。あなたを呼ぶみんなの声が。
 彼女は耳をすませた。
 ……聞こえる。聞こえるわ。大好きなみんなの声が。大好きな、大好きなあのひとの声が。戻りたい。みんなのところへ。あのひとのところへ。
 還りなさい。あなたの場所へ!

 レナ!!!


 彼女の中で、何かが大きくはじけた。その衝撃の凄まじさに、レナは思わず絶叫した。
「あああああっ!!」
 朦朧としていた意識が急激に覚醒され、頭が割れそうなほど痛んだ。心臓が胸を突き破りそうなほど大きく跳ねあがり、腕や脚が締めつけられるように軋んだ。彼女を流れる血が逆流して身体のあちこちで暴れ回っているようだった。
「なに?」
 ルシフェルは突然の少女の異変に、初めて動揺をみせた。瞳を見開き身悶えして苦しむ彼女を神妙に眺める。すると、胸許に仕舞われていたペンダントの飾り石が、ひとりでに服から抜け出して浮き上がった。そしてそれは、ルシフェルの眼前でいきなり強烈な閃光を放った!
「ぐおおっ!」
 ルシフェルは呻いて片手で顔を覆った。狂風の渦がピタリと止む。この機を逃さずすぐに斬りかかったのは、ディアス。石柱を足場にして大きく跳躍し、気合一閃、赤い翼の片方を付け根から斬り落とした。ルシフェルはレナを手放し、あえなく落下する。ところがレナは落ちなかった。空中を浮遊したまま、留まっている。
 ようやく地面に降りることができたクロードたちは、あちこちぶつけられた痛みとさんざん振り回された後遺症の眩暈《めまい》とで、起き上がることすらままならなかった。それでも顔だけはどうにか上げて、レナの方を仰ぐ。
 翼を斬られたルシフェルも同様にレナを見上げる。先程の閃光にやられたのか、頬には血の涙の流れた跡があった。
「莫迦な。この私の傀儡《くぐつ》法が通じない? いったい何が起こったのだ?」
 レナは両腕を少し広げ、目を閉じたまま宙に立っている。ペンダントの石が白い霊気のようなものをしきりに放出して、彼女を護るように覆っている。
「あれはただのクォドラティック・キーではないか。どうしてあのような反応が……」
(「……紋章石から異質な紋章を抽出することに成功……」)
 その声は、彼女の内側から聞こえてきた。嫋々《じょうじょう》と、そして粛然と自身に秘められた大いなる真実を告げる。
(「……胎児の遺伝子に直接刻み込むことにより、効果の精度は無比に増幅され……」)
「レナ……あれは、レナなのか?」
 クロードは立ち上がり、光に包まれながらゆるゆると降りてくるレナを放心したように見つめる。
(「……防衛本能と結合し、決定的な危機の際に発動……」)
 レナが地面に降り立つ。飾り石の光が徐々に弱まり、彼女を包む霊気も薄くなっていく。
(「……これを、絶対守護紋章と称する」)
 光が完全に消え去り、レナは目を開けた。視界の中心には忌々しそうにこちらを見るルシフェルの姿があった。その奥には、クロードの姿も。
「お母さんが、護ってくれてる」
 レナはペンダントを握りしめて、それに囁きかけるように言った。
「私はずっとお母さんを捜してた。でもほんとうは、お母さんはどこにも行ってなかったのね。いつだって私のなかにいたんだね。ずっと気づかなくて、ごめんなさい。これからはいつも一緒よ。私を、見守っていてね」
 ペンダントを服の中に仕舞って、レナは前方のルシフェルをきっと睨んだ。ルシフェルは左手の拳を胸の前で震わせている。掌の内から赤い血が洩れて、地面に滴り落ちる。
「認めぬ……私は認めぬぞ! 我が術法は完璧だ。私は完璧な肉体と精神を兼備した至高なる存在なのだ。なのに……なぜだ。お前は私を超えるというのか?」
 言いながらルシフェルは、自分が怯えを感じていることに気づいた。こんな感情を抱いたことは、あのガブリエル以外では一度もなかった。あり得ないことだった。
「ずいぶん自分に自信のある奴なんだな」
 誰かがすぐ近くで言った。
「そういうのをナルシストって言うんですのよ」
 気がつくと、人間たちがルシフェルを取り囲んでいた。ルシフェルはぎょろぎょろと神経質そうに目玉を動かして彼らを見回す。もはや余裕などなかった。翼を斬られ、飛ぶことも風を起こすこともできない。だが、それでも。
「認めんぞっ!」
 高々と掲げたルシフェルの掌から電光が迸り、無数に枝分かれした稲妻が部屋を駆け巡る。彼の矜持《きょうじ》と名誉とを賭した、最後の戦いの幕が開いた。
 仲間の何人かは電撃に打たれたが、何人かはうまくやり過ごして反撃に転じた。クロードが斬りかかり、オペラが光弾を放ったが、ルシフェルは瞬間的に消えては別の場所に現れて、なかなか捉えることができない。彼が四方八方に真空の刃を飛ばして抵抗すれば、セリーヌはイラプションを唱えて切り返す。空気を圧縮して放たれた砲撃はエルネストの鞭が作り上げた気流の壁によって打ち消される。あらん限りの力を振り絞って放たれた電撃は彼らの身を灼いたが、すぐさまレナの呪紋で癒される。
「私は……私は完璧だ。貴様らのような不完全な人間ごときに負けるはずがない。私は世界をあるべき姿に導き、その頂点へと君臨する使命を負った存在。選ばれし人間なのだ! それが、貴様らごときに……」
 取り逆上《のぼ》せて無差別に攻撃しながら、彼は自分に言い聞かせるように喚《わめ》き散らす。瞋怒《しんど》のために歪んだその形相に絶世の美貌はもはや微塵も感じられず、血の涙はとめどなく流れている。
 ボーマンが背後から殴りつけ、エルネストが鞭で足許を薙ぎ払った。床に蹲るルシフェルを残して、彼らは部屋の隅へと避難する。その正面で並んで詠唱しているのは、レナとセリーヌ。
「スターフレア!」
「ルナライト!」
 ふたりが息を合わせて同時に唱えた。恒星の激しい光と月光が上空で絡まり合い、融合して、凄絶な光の柱となってルシフェルの頭上に落ちた。天地も砕けんばかりの絶叫が部屋に轟く。
 光の柱は、すぐに何事もなかったかのように消え失せる。ルシフェルはなおもそこに立っていた。全身から黒煙の細い筋が立ちのぼり、残る片方の翼も半ば溶けている。栄華を誇っていた男の惨めな姿に、彼らは憐れみすら感じた。
「まだ生きているのか?」
「そうみたいだけど……あっ」
 ディアスが無言のままに駆け出した。まっすぐ、ルシフェルの許へと。
「夢幻」
 すれ違い、ただ駆け抜けただけのように見えたが、次の瞬間、ルシフェルの胸から鮮血が噴き上がった。裂かれた胸から迸る紅の飛沫は地獄の噴水を思わせ、また同時にこの世ならぬ美しさもあった。
 ルシフェルの背中が地面に着く。それは彼が乗り越えてきた三十七億年という歳月が、一気に解放された瞬間でもあった。彼は自らの敗北を受け入れた。天に向けて見開かれた双眸が緩み、そして笑った。今まで見せた表情の中で、最も人間らしい笑顔だった。
「ふふふ……まさかこのような結末が訪れようとはな……。だが、これで宇宙の崩壊は決定的となった。私の存在なくしてガブリエルは止められん。崩壊紋章が作動し、全てが終わる」
「止めてみせるさ。そのために、僕らはここまで来たんだ」
 クロードが歩み寄って、言った。
「ふん、甘いな。貴様らは奴の恐怖を知らん。欠陥品《バグ》であるが故の恐ろしさを。……ふっ。だが、それは私とて同じことであったな」
 ルシフェルは自嘲的に呟いた。
「惜しむらくは、私が企てたこの戦乱の結末を、この目で見ることができんことか。まあ……今となってはもはやどうでもいいことだ」
「お前が企てただって?」
 クロードは思わず声を上げた。
「この戦いの発端は、ランティス博士じゃないのか?」
「……ふふふ。貴様らには話してやるか。悠久の過去に起きたあの事件の、最後の真実を」
「最後の、真実……」
 レナが呟く。仲間たちも固唾を呑んで、次の言葉を待った。
「……三十七億年前の、あの日のことだ」
 たっぷりと間を置いてから、ルシフェルは話した。
「ランティスの一人娘がテロリストに誘拐された。奴らは娘《フィリア》の命と引き換えに、十賢者計画の中止を要求してきたのだ。ランティスは要求を呑むつもりだった。自らの地位も研究も財産も全て投げ出してでも、娘の命だけは守る、そんな男だったのだ。……だが、それでは私が困る。私の大いなる野望を、こんなところで潰すわけにはいかなかった。だから──私はラヴァーに命じた。『テロリストのアジトに潜入し、皆殺しにしろ』とな」
「ま……まさか……」
 クロードは戦慄した。笑みを浮かべたまま、ルシフェルは淡々と続ける。
「ラヴァーは忠実にそれを実行してくれたよ。アジトを見つけ、中にいた者をひとり残らず殺した。……無論、監禁されていた人質もな」
「なっ!」
 その場にいた全員が凍りついた。信じられない。信じたくない。だが。
「それじゃあ、フィリアさんを殺したのは……」
「私だよ」
 ルシフェルは言った。息絶える間際とは思えないほど、明瞭な声だった。
「フィリアが死ねば、ランティスは狂う。暴走したランティスは十賢者を使って復讐を始める。全ては私の予測通りに事が運んだ。……まあ、エタニティスペースに封印されることまでは予想外だったが……。それでも私は雌伏《しふく》して機会を待った。そして、ようやく我が至願が達せられるときが来たのだ。それを……貴様らは何もかもぶち壊してくれた。三十七億年も堪えてきたというのに、その結果が、このザマだ」
「……欠陥品《バグ》は、お前の方だったのか」
 クロードが呟くと、ルシフェルは何か言おうと口を開いたが、途中でやめて、代わりに息を吐いた。
 創られし存在が抱いてしまった野望が、創り主の運命をも変えてしまった。それは、創造という人間が踏みこんではならぬ領域を侵してしまったことによる、神罰だったのかもしれない。しかし、あまりにも哀しすぎた。
 レナが突然、クロードの手に握られていた剣を奪って、ルシフェルの傍らに立った。すっかり青白くなったその顔を、じっと見つめながら。
「あなたはきっと、この世界に生まれてくるべきではなかったのね」
 冷厳《れいげん》として、彼女は言った。
「……そうかもしれないな」
 ルシフェルは微笑を浮かべたまま、瞑目する。
「還りなさい、あなたの場所へ」
 そして、剣を胸に突き立てた。



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【ひとくち解説】
 最後の場面のレナが恐いよぅ(´・ω・`)
 それはともかく、ルシフェルは変態キャラ全開で書いてて楽しかったです。美形の変態とショタっ子は永遠に不滅です。両方セットなら猶良し。
posted by むささび at 19:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説SO2
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