2009年01月15日

小説 STAR OCEAN 2 〜 ネーデ編 第四章(1)〈続〉

   PANIC1 家庭料理の勇者現る

 レナとクロード、それにボーマンの三人は、街の中心部から東に向かって歩いていた。
「あれ? みんなは?」
 レナがあたりを見回しながら言った。入場門を潜ったときには、確かに全員いたはずなのに。
「エルネストさんは、まだ足の具合が不安だからって、宿で休んでるよ。オペラさんも付き添ってね。ノエルさんは何かバーニィレース場に用事があるとかで、そっちに行った。ディアスとセリーヌさんも、いつの間にかいなくなってたな」
「そっか。まあ、街の中なんだから、みんないっしょに動くことはないよね」
 と、レナは背後のボーマンを見た。なんとなく。
「な、なんだ?」
 その視線にうろたえるボーマン。
「もしかして、邪魔なのか、俺?」
「別に、そういうわけじゃ、ないんですけど……」
 それでも、やはり残念そうだ。
 広々とした通りをずっと行くと、向こうに石造りの大きな建物が見えてきた。ラクールの城を思わせるような荘厳な建物だった。
「なんなのかしら、これ」
「『クッキングマスター』だってさ」
 クロードが三つ折りになっている紙を広げた。入場門でもらったこの街の案内図だ。今いる場所を確認して、そこの説明を読み上げる。
「『特定の食材をテーマにして、我がマスターが誇る【ゴールドシェフ】と料理で対決していただきます。制限時間は六十分。作品の審査は当マスターの主宰ヤーマが行います。料理に自信のある方ならどなたでも参加できます。参加料は千フォル』……変なアトラクションだな」
「料理かぁ。面白そうね」
「まさか、参加するの?」
「うん。せっかくだから、やってみたい」
「よし。行けっ、家庭料理の勇者よ!」
 ボーマンが後ろから威勢よく言ったが、ふたりは白けたように彼を見ただけで、すぐに何事もなかったように歩いていった。
「……やっぱり、俺、場違いな気がするんですが……」
 ボーマンはがっくりと肩を落としたまま、失業したサラリーマンのようにとぼとぼとふたりの後をついていった。


   PANIC2 戦いが俺を呼んでいる

「ようこそ。ファンシティ闘技場へ。参加をご希望ですか?」
 ディアスが無言のまま頷く。
「バトルモードはどれになさいますか? デュエルバトルは一対一で四戦勝ち抜き。ブリーングバトルは複数敵相手に三戦勝ち抜き。チームバトルは……団体戦ですからお仲間もいっしょでないと参加できません。あとは、サバイバルバトルですか」
「それは何だ?」
「五十戦勝ち抜きですよ。最初のうちは弱い敵ですが、だんだんと強くなっていきます。かなり厳しいモードなので、これまで見事五十戦を戦い抜いた者はおりません」
「それにしよう」
 ディアスがさらりと決めてしまったので、受付の女性は目を瞬かせて彼を見た。
「本当によろしいのですか? 敵はヴァーチャルリアリティーですが、叩かれれば傷も負いますし、場合によっては大怪我するかもしれませんよ」
「のぞむところだ。実戦に近ければこちらも全力で戦えるからな」
 受付の女性はそう言うディアスに呆れたような顔をしながら、デスクの装置に彼の登録を始めた。
「ディアス様ですね。登録は完了しましたので、そちらのフィールド入口までお進みください」


   PANIC3 ノエルの出張健康診断

「おや、ノエル先生」
「やあ。お久しぶりですね」
 ノエルはレース場の裏手にある関係者専用の通用口から入って、そこにいた若い男に挨拶をした。
「ちょうどよかった。また、お願いできませんかね?」
「ええ。僕もそろそろ時期かと思って、この街に来たついでに寄ってみたんです」
「そいつはありがたい。ささ、こちらへ」
 男に案内されて、ノエルは奥の部屋へと通された。
 そこはバーニィたちの厩舎となっていた。木の柵で仕切られた小部屋がずらりと並んで、その中に一匹ずつ、さまざまな大きさや色合いのバーニィが入れられていた。
「最後にノエルさんに診てもらったのが半年前ですからね。その間に調子が悪くなったり、具合のおかしくなったバーニィもちょくちょく出てきました。専属の獣医だけではどうにも対応しきれない面もありましてね。どうかよろしくお願いします」
「わかりました。それじゃあ、始めますか」
 ノエルは柵の隅に設けられた扉から、バーニィのいる小部屋へと入っていった。


   PANIC4 JOFC−TV+『クッキングマスター』台本より

 BGMと同時に、主宰のナレーション開始。
「わたしの記憶が確かならば、今、このエナジーネーデは未曾有の危機に瀕している。三十七億年の時を経て、あの恐ろしい十賢者が再び舞い戻ってきたのだ。そして彼らはこのネーデだけでなく、全宇宙の脅威となりつつある。そんな彼らの野望を阻止すべく、わずか八人の勇敢な戦士たちが立ち上がったことは、皆もよく存じていることだろう。今回はなんと、その希望の戦士のひとりが挑戦者として名乗りを上げたのだ。
 それではご紹介しよう。戦士たちの食事を一手に引き受ける家庭料理のスペシャリスト、レナ・ランフォード!
 彼女が料理を始めたのはわずか四歳のとき。母親の手伝いで材料の下ごしらえをしたのがきっかけであった。それから長い下積みを経て、六年後にようやくひとりで台所に立つことができた。あのとき初めて作ったビーフシチューは、生涯忘れられない味になったという。そして十七歳で旅に出てからは、野宿の際の炊事をいつも任されていた。なけなしの材料でいかに旨く作るか。彼女の料理に対する追求は日増しに強くなっていったのである。
 さあ、レナ・ランフォードよ。戦士たちの腹を満たしてきたその素晴らしい料理を、大いに見せつけるがいい!」
 カメラ切り替え。マスタースタジアム全体から徐々にズームイン。カットバックには整然と並んだ食材。テーマ曲が流れる。
 主宰入場。壇上の中央で止まり、手前に山積みになっている食材から黄色のピーマンをつかんで、爽やかにかじる。そこでズームアウト。それをタイトルバックに『COOKING MASTER』のタイトル表示。
 BGMストップ。再びスタジアムを俯瞰《ふかん》する。実況席のマイクON。
「マスタースタジアムに、新たな挑戦者がやって参りました。希望の戦士は、果たしてここでも希望の風を吹かせてくれるのでしょうか。実況はわたくしフクイ。解説はおなじみのユキオーン・ハトリさんとお伝えして参ります」
「よろしくお願いします」
「さあ、それでは主宰の挨拶です」
 観客席の盛大な拍手に応えて、主宰が一礼。
「十賢者との激しいせめぎ合いも、いよいよ最終局面を迎えようとしているこの時勢。今回の挑戦者は、まさしくその渦中にいる人間でもあります。
 それでは皆さん、大きな拍手をもってお迎えください。打倒十賢者に燃える家庭料理のスペシャリスト、レナ・ランフォード!」
 拍手に出迎えられ、挑戦者入場。スタジアムの中央で主宰と握手する。
「ようこそお越しくださいました」
「あ、はい。ありがとうございます」
「自信のほどは」
「え、いや、ありませんよ。そんなすごい料理作れるわけじゃないのに……」
「その謙虚な姿勢での料理を、期待してます」
「はあ……がんばります」
「それでは、我がマスターが誇る料理人に登場してもらいましょう。
 蘇れ、ゴールドシェフ!」
 荘厳なBGM。壇の下からゴールドシェフがせり上がってくる。盛大にスモークとライトアップ。実況がシェフの紹介をする。
「ネーデの料理界を常にリードしてきた天才料理人、ヒロ・サクァーイ。芳醇で繊細な味と絵画のごとく色彩豊かな料理はまさに芸術作品。その流れるような包丁さばきで、今日はいったいどんな料理を我々に披露してくれるのでしょうか」
 ゴールドシェフ、挑戦者と並んでスタジアムの中央に立つ。主宰は壇上で二人を見下ろす。
「野宿のときにはいつも材料を集めるのに苦労するという、今日の挑戦者。おそらく、最も使い慣れている食材だと思います。
 それでは発表します。本日のテーマは、これです!」
 主宰が手前の棚にかかっていた布を華麗にめくる。所狭しとひしめく野菜。重々しいBGM。
「今日のテーマは、野菜」
 そこで数秒の間。余韻を残したまま画面フェードアウト。

 ────CM────

 CM明け。カメラはスタジアムを俯瞰。勇壮なBGM。実況のマイクON。
「全宇宙の命運を握っていると言っても過言ではない挑戦者。このマスタースタジアムでも、料理界の命運を賭けた戦いが今、始まろうとしています」
「さあ料理を始めよ《アーレ・キュイジーヌ》!」
 ゴングが低く鳴り響く。ゴールドシェフと挑戦者、材料選びのために中央の棚へと向かう。
「さあ、長くて短い六十分が始まりました。今回の挑戦者はいわゆるプロではないだけに、新鮮なものが期待できそうですね」
「そうですね。やはり家庭料理ということで、愛情たっぷりの料理を作ってほしいです」
「さて……挑戦者は何を取ったでしょうか。……ほう、ジャガイモですね」
「男爵イモですね」
「男爵イモと、人参、それにタケノコですね。一方のヒロは、キャベツと、トマトですか」
「ネギと白のアスパラガスも取りましたよ」
「さあ、両者とも、これでいったいどんな料理を作ろうというのか」
「フクイさん」
「はい。オウタさん。どうぞ」
「挑戦者にこの試合の意気込みを聞いたところ、照れくさそうに一言『一生懸命やるだけです』と話してくれました」
「今日も冷蔵庫前のリポートはオウタさんです。ハトリさん、挑戦者は相変わらず謙虚ですね」
「ですね。好感が持てます」
「おっと、挑戦者がジャガイモの皮をむき始めてます。やはり慣れた手つきです」
「これだけ包丁を自在に扱えるってのは、たいしたもんですよ」
「あっという間に皮をむき終えて、さて、これをいったい何に使おうというのか」
「フクイさん」

「オウタさん、どうぞ」
「一方のヒロなんですが、挑戦者について聞いてみたところ、『こっちはプロなんだから、貫禄ってやつをみせてやんないとね〜。でも、油断はできないよ』と語ってくれました」
「ありがとうございました。そのヒロですが……鍋に火がつきましたね。入っているのは、これは、水だけですか?」
「おそらく、なにか茹でるんじゃないんですかね」
「そして、これが茹でるものになるのか。帆立を殻から取りだしてます。さらに、その横にはトマトが用意されてますね」
「見てくださいよ。挑戦者の炊飯器にスイッチが入ってますよ」
「おやおや、本当だ。これは入ってるのはご飯なのでしょうか」
「フクイさん」
「はい、どうぞ」
「この炊飯器の中身ですが、お米の他に、だし汁、醤油、それにタケノコが入っている模様です」
「ということは、炊き込みですね。挑戦者、竹の子ご飯を作ってきました」
「いいですね。炊き込みご飯ってのは家庭のアイデアが詰まった料理ですからね」
「一方のヒロですが、なかなか下ごしらえに時間がかかっていて、こちらからではまだ一品も形が見えてきませんが……ほう、フォアグラとトリュフが用意されてますよ」
「これは面白いですね。家庭料理に対して、あくまで高級志向で対抗する。見物ですよ」
〈十五分経過〉
「さあ、早くも十五分経過のアナウンスが流れました。……おおっと、ヒロは、フライパンで何をやってるんでしょうか」
「キノコですね。しめじに舞茸にシャンピニオン。スライスしたものをソテーしてます」
「その一方で、ヒロはアイスクリーマーの用意もしているようですね」
「これですよ、これ。湯むきしたトマトをフードプロセッサーにかけてます。これはなにか味つけしてあるのかな?」
「フクイさん」
「オウタさん、どうぞ」
「このフードプロセッサーの中身ですが、湯むきしたトマトに、シロップ、ウォッカ、レモン汁、タバスコが加わってます」
「ほら、やっぱり。ソルベですよ」
「それでは、トマトのソルベってことになるんでしょうか……。おや、挑戦者サイドですが、牛肉が出てきましたね。牛の薄切りです」
「読めましたよ。ジャガイモに人参、タマネギ、グリンピース、それに牛肉とくれば、間違いないでしょう」
「肉じゃがですか」
「その通りです。肉じゃがといえば家庭料理の代表格ですからね。狙ってますねぇ」
「さて……ヒロは何をしているんでしょうか? これは、キャベツですね」
「茹でたキャベツで、帆立とニラを巻いてます。あの黒いのは……塩昆布ですかね」
「フクイさん」
「はい。どうぞ」
「先程の『狙ってる』というハトリさんのコメントに対して、挑戦者は『そんな、狙ってませんよ。これしか作れないだけです』とのことです」
「ありがとうございました。これしか作れない、ですか」
「そんなことはないですよ。自信をもって作れるのがこれだってことでしょうね」
「なるほど。あくまで謙遜の姿勢を崩さないわけですね。……さあ、ヒロのキャベツで巻いたものがオーブンに入れられました。彼の方も少しずつではありますが、作品の輪郭が見えてきたようです」
〈三十分経過〉
「いよいよ後半戦へと突入しました。ここまでは両者ともに、それぞれの持ち味を出しきっているという感じですが」
「おやおや、挑戦者のほうでもアイスクリーマーが出てきましたよ」
「ほう、本当ですね。今、挑戦者がボウルでかき混ぜているものが入れられるのでしょうか」
「フクイさん」
「どうぞ」
「このボウルの中身ですが、ゆずの果汁、グラニュー糖、はちみつ、それにゆずの皮をすりおろしたものも入ってます」
「ということは、ゆずシャーベットということですか」
「そうですね。きっとあれでしょう、ヒロのほうがソルベを作ってるから、こっちでもデザートがいると思ったんじゃないでしょうか」
「なるほど、そのあたりは臨機応変に対応しているわけですね。……ヒロのソルベはすでにアイスクリーマーに入れられています」
「ヒロは、これ、さっきのキャベツ包みのソースですかねぇ」
「これは、何が入っているんでしょうね。赤というか、橙というか……」
「フクイさん」
「どうぞ。オウタさん」
「この、煮詰めている鍋の中身なんですが、エシャロット、にんにく、ノイリー酒、サフラン、ジュ・ド・ユキュヤージ、たかの爪、カイエンヌ、パプリカが入ってる模様です。今、人参のピューレも加わりました」
「はい。どうも。おそらくこれは、キャベツ包みのソースになるものと思われます」
「見てくださいよ。挑戦者の肉じゃが、いい具合に煮詰まってますよ」
「ああ、本当ですね。なんだか、見てるだけでよだれが出てきそうなぐらいです」
「フクイさん。この肉じゃがの中身の確認なんですが」
「はい。どうぞ」
「ジャガイモ、牛肉、タマネギ、人参、グリンピース、だし汁、砂糖、酒、醤油、それに生姜のみじん切りしたものが入ってます」
〈十五分前〉
「おっと、ここで十五分前のコールがかかった。この対決も、残すところあと四分の一足らずといったところまで来ました。さて……ヒロは、カップになにやら盛りつけているようですが」
「牛ですね。牛のローストです。下にはキノコとアスパラ、それにフォアグラのソテーも入ってるんじゃないですか」
「これはいったいどういう……ああ、スープですね。横にコンソメスープの鍋がありました」
「たぶん、このままテーブルに出して、直前で熱いコンソメを注ぐんですよ。いやいや、これは間違いなく旨いですよ」
「確かに、牛のローストに、フォアグラまで入ってるんですからね。これが不味いわけがないといった感じです。おお、今、トリュフも入りました」
「これでもかこれでもかって具合に高級品の応酬ですねぇ。これは面白いですよ」
「おや、ここで挑戦者側にアクシデントか? これは、アイスクリーマーだ。アイスクリーマーが動きません。ゆずのシャーベットは、果たしてどうなってしまうのか?」
「故障ですねぇ。これは不運だ……おお!?」
「動いた。直りました! 今、挑戦者が思いきり機械を蹴飛ばしたら、何事もなかったかのように、再び動き出しました」
「いやいや、今のはすごい場面でしたね。はっはっ」
〈五分前〉
「さあ、いよいよ大詰めです。両者ともに仕上げの段階へと入りました。ヒロのソルベは、もうカップに盛りつけてありますね」
「フクイさん」
「はい。オウタさん」
「先程の挑戦者がアイスクリーマーを直したことについて、ヒロは『あれはよく止まるんだよねぇ。俺も泣かされたよ。蹴りで動かしちゃうなんて、やるじゃない』と、別の方面で感心してました」
「そうですか。蹴りではヒロに認められた挑戦者。果たして料理のほうでもヒロを唸らせることができるのでしょうか」
「挑戦者、竹の子ご飯がでてきましたよ」
「おっと、本当だ。ほかほかの竹の子ご飯が、茶碗に盛りつけられております」
〈一分前〉
「ついに一分前です。ヒロのほうも動きが慌ただしくなった。キャベツ包みをオーブンから取りだして、皿に盛りつける。ここでソースがかかった」
「このソースが絶妙なんですよね」
「一方、挑戦者は最後に肉じゃかの盛りつけにかかった。これもおいしそうだ。湯気をたてて、ほくほくのジャガイモが器に転がりこむ」
〈十五秒前〉
「両者とも、ほぼできあがった模様です。ヒロはスープに、キャベツ包みに、トマトのソルベ。挑戦者は竹の子ご飯に肉じゃが、そしてなんとか間に合ったゆずシャーベット。さあ、まったく趣向の違う二人の料理。果たして軍配はどちらに上がるのでしょうか」
〈五秒前。三、二、一〉
 試合終了のゴング。調理の手を止める両者。観客席から拍手が湧き起こる。
 すぐにリポーターのインタビュー。まずは挑戦者から。
「いかがでしたか。六十分戦い終えて」
「短かったです。時間配分とかもよくわからなかったから、どんどん時間が過ぎていっちゃって。とりあえず、やれるだけのことはやりました」
「ゴールドシェフに勝てる自信は」
「そんな、勝つつもりなんてありませんから。勝ったら向こうに失礼です」
 続いて、ゴールドシェフ。
「いかがだったでしょう。今回は」
「いや、いつもどおりですよ。手加減したつもりはないし」
「料理の出来はどうでしょう」
「んー。まあまあじゃないかな。プロの意地ってやつだね」
「では、勝てると」
「やってみなきゃわかんないからね。こればっかりは」
 インタビュー終了。すぐに画面切り替え。作品の画面とともに、実況が料理の説明をする。
「挑戦者の料理はこの三品。竹の子ご飯は家庭の知恵が編み出した究極の一品。ほくほくしたご飯に竹の子の歯触り。アクセントに添えた三つ葉が絶妙です。挑戦者が自信をもって作り上げた肉じゃがは、素朴な『おふくろの味』を彷彿とさせます。煮汁が芯まで染みこんだジャガイモは、旨味が口の中でふわりと広がります。デザートは、ゴールドシェフに対抗して作ったという、ゆずのシャーベット。すりおろしたゆずの皮の粒が、上品な味に仕上げています。
 一方のゴールドシェフも同じく三品。新緑のスープはネギとアスパラのほか、牛ロースト、フォアグラ、さらにトリュフまで用いたまさに贅沢な一品。客席で熱々のコンソメスープを注いで完成です。帆立貝のキャベツ包み・新わかめ添えは、帆立とニラ、塩昆布をキャベツで巻いたもの。ヒロの真骨頂でもあるソースが絶品です。デザートには一風変わった、トマトのソルベをもってきました。サバイヨンソースをかけ、さらにグラッセして見た目にもこだわった、ヒロらしい一品です」
 その後別室で試食が始まるが、ここでは割愛。あしからず。

 ────CM────

 CM明け。審査を終えた主宰がスタジアムに戻ってくる。会場、大きな拍手。
「飽食のこの時代にあって、シンプルな家庭料理を見直すきっかけをもたらしてくれた、今日の挑戦者。私も、思わず故郷の母を思い出しました。……それでは発表します」
 緊迫したBGM。実況のマイクON。
「十賢者との戦いのさなか、このスタジアムに挑んできた挑戦者。ここで見事に勝利して、故郷に錦を飾ることができるのか。ゴールドシェフか。それとも、家庭料理の勇者か!」
 BGMストップ。一瞬の間。
「挑戦者、レナ・ランフォード!」
 驚いて、それから満面に笑みを浮かべる挑戦者。勝利をたたえるBGMが流れ、割れんばかりの拍手が起こる。中央で、ゴールドシェフと挑戦者が両手で握手を交わす。
「やりました。挑戦者です。家庭料理の勝利です。けっして着飾ることなく、純粋にうまさを追求した家庭料理が、ゴールドシェフを打ち破りました。ここに、ネーデ料理界においても新たな一ページが刻まれることでしょう!」


   PANIC5 患者1:イエローバーニィ

「二ヶ月くらい前からですかねぇ。急に走りが悪くなったんですよ。出走してもすぐに息切れしてしまって。充分休養は取ってるはずなのに、なんだか疲れているみたいなんですよ」
「なるほど」
 ノエルはバーニィの前で、係員から説明を受けていた。
「それで、我々のほうでも調べてみたら、どうも、寝不足みたいなんですよ。夜に小屋をのぞいても、こいつだけずっと起きてるんです。不眠症ですかねぇ……」
「うーん。バーニィの不眠症ってのは、あんまり聞いたことないですねぇ。ほかに原因があるのかも……おや?」
 ノエルは、バーニィがちょっとだけ口をもごもごと動かしたのに気づいた。元からもごもごとしたような口なので、普通の人間では気づかないが、彼だけはその微妙な動きを察知したのだ。
「ちょっと、ごめんな。口を開けて」
 ノエルは嫌がるバーニィの口を無理やり開けさせた。その中を、じっと覗き込む。
「ああ、これは、虫歯ですねぇ」
「虫歯?」
 係員が驚いた。
「ええ。たぶん、こいつが痛むから、夜もなかなか寝られなかったんじゃないでしょうか。……あ〜。もう神経までやられてますねぇ。抜くしかないでしょう」
 ノエルは係員に大きめのペンチを持ってこさせた。銀色のペンチを受け取り、ふたたび振り向くと、バーニィは目を潤ませてノエルに懇願している。
「ダメですよ。そんな顔しても。あなたのためでもあるんだから」
 ノエルが無表情ににじり寄る。バーニィは思った。この人、鬼だ。


   PANIC6 生肩と生足

 クッキングマスターに勝利して、景品に山ほどの野菜をもらったレナは、意気揚々と会場を後にした。野菜は当然のごとく、男ふたりに持たせて。
「結局、こうなるんですね……」
「だから深く考えるなって……」
 クロードとボーマンがこそこそと囁き合う。
「ほら、早く歩きなさいよ。まだ時間はあるんだから、ほかのところへ……きゃっ!」
 後ろのふたりを振り返ったとき、誰かが正面から勢いよくぶつかってきた。突き飛ばされて尻餅をつくレナ。
「いったぁ〜……あれ、セリーヌさん?」
「レナ?」
 そこにいたのは、セリーヌだった。狸のバイオリン演奏でも見るような顔つきで、そこに立ちつくしている。
「どうしたんですか?」
 レナが訊ねても、セリーヌはまるで彼女のことなど気にもとめずに、きょろきょろと辺りを見回し、そこで何かを見つけて、脱兎のごとく大通りを走っていってしまった。
「あ、ちょっと、セリーヌさ……!?」
 言いかけて、レナは口をつぐむ。横の狭い脇道から、蜂の巣をつついたように何人もの人がわんさか溢れ出てきたのだ。
「彼女はどこだ!?」
「いたぞ、向こうだ!」
「待ってくれ〜」
「お姉ちゃ〜ん」
「おらのこの愛、受け止めてくんろ〜」
「いとしのマイエンジェル、今この僕が行くよ〜」
「いや〜ん、お姉さま〜ん」
「バグってハニ〜」
「スペランカー」
「ワシの後妻になってくれ〜」
 若い男ばかりでなく、女性もいれば老人もいる。それぞれに歓声やら奇声やら意味不明な単語やらを発しながら、セリーヌを追っている。その様子は、まさに餌に群がる蟻の集団だ。
「……ネーデも、もう、ダメかもしれない……」
 狂乱の余韻が尾を引くなか、クロードがぼそりと呟いた。
「セリーヌの奴、いつの間にあんな熱狂的な追っかけがついたんだ?」
「そんなわけないでしょ」
 ボーマンに突っ込んでから、レナは走り出した。クロードが慌てて止める。
「ちょっと、どこ行くんだよ?」
「なにがあったのかは知らないけど、ほっとくわけにはいかないでしょ。後を追っかけるわ」
「僕らはどうすりゃいいんだよ」
「野菜を宿まで持っていって」
 それだけ言い置くと、さっさと駆け出していった。取り残された男ふたりは、茫然とそこに立ちつくす。
「……最近、悩みがあるんですが」
「なんだ?」
「レナは、本当に僕のことが必要なのかなって……」
「……まぁ、あれだ、その件に関しては後でゆっくり話し合おう。な?」
 落ち込むクロードの肩を、ボーマンは慰めるように叩いた。


   PANIC7 歯ごたえがありそうだな

「さあディアス選手、ここまで二十九匹までを無難に退け、いよいよ三十匹目です。果たしてどこまで記録を伸ばせるのか?」
 フィールドの中央に、大蜥蜴の怪物がさっきからそこにいたような恰好で現れた。ディアスは身構え、すぐに斬りかかる。
 蜥蜴が炎を吐いた。ディアスは跳躍して躱すと、岩山のような背中に降りたってそこに剣を突き刺した。魔物はもがいてディアスを振りほどこうとする。ディアスが剣を抜いて相手の足許に着地したとき、突如として図太い尻尾が鞭のように撓《しな》って襲いかかった。弾き飛ばされ、フィールドの壁に叩きつけられるディアス。さほどダメージは大きくなく、すぐに立ち上がることはできた。
 蜥蜴が再び炎を吐き出した。横っ跳びでそれを避けてから、ディアスはその場で空破斬を放つ。衝撃波が敵の腹下の地面を素通りする。それでいい。動きさえ止められれば。
 ディアスは柄を逆手に握り変え、下から上へ、弧を描くように剣を振るった。
「弧月閃」
 剣の軌跡がそのまま闘気の刃と化し、一瞬にして大蜥蜴の胴体を真っ二つにした。地面に転がった肉片はさあっと霧散するように消滅した。
 ディアスは大きく息をついた。さすがにここまで来ると、敵の強さも半端ではない。だが、相手が強ければ強いほど、自分の闘争心もおのずとかきたてられるのだ。目の前の敵を屠ることの喜びに、彼は酔いしれていた。
 まったく事務的に、次の敵がフィールドに出現する。恐ろしい怪鳥を相手に、ディアスの孤独な戦いはまだまだ続いた。


   PANIC8 患者2:グリーンバーニィ

「この子はどうしたんですか?」
「耳が遠くなったみたいなんですよ」
 係員が説明する。
「レースのスタートの合図が、聴き取れないみたいなんです。みんながスタートしたのをみて、遅れて走り始めるといった具合で。おかげでどうしても出遅れて、なかなか順位が上がらないんですよ」
「へえ。耳が遠い、ですか。どれどれ」
 ノエルはバーニィの垂れ下がった耳をぺろっとめくって、その付け根に顔を近づけて呼びかけてみた。
「もしもーし」
 バーニィの反応はない。
「聞こえますかー」
 少し声を大きくしても、やはりバーニィは動じることなく、彫像のように佇んでいる。
「わっ!」
 ノエルはいきなり、おどかすように耳許で叫んだ。さすがのバーニィもこれには飛び上がって、野生の本能か、狭い小屋ということを忘れて一目散に逃げ出し、柵に激突してあえなく倒れた。
「うーん。ちょっと耳がただれてますねぇ。もしかしたら中耳炎かもしれません」
 ノエルはまったくお構いなしに、気絶したままのバーニィの耳を覗いている。
「僕では治療はできないから、獣医に頼んで詳しく診てもらってください」
「あ、あの、ノエル先生……」
「なんですか?」
「それより、この子、起きあがらないんですけど……」
「ああ、大丈夫ですよ。ショックで伸びてるだけですから。少しすれば目を覚まします」
 ノエルは平然とそう答えて、小屋を出ていってしまった。
 係員も思った。この人、やっぱり鬼なんじゃないかと。


   PANIC9 ご乱心

「どこいったのかな……セリーヌさん」
 レナは闘技場の中をくまなく捜し回ったが、彼女の姿を見つけることはできなかった。道すがら、やはり彼女を追いかける謎の一団らしきものたちが周辺を必死に捜索していたが、同様に見つけられないでいるようだった。
 スタンドをぐるりと一周して、もうここにはいないのかと諦めて帰ろうとしたそのとき、受付のカウンター近くの部屋で、派手な藤色の髪がチラッと見えたような気がした。レナは怪訝に思いながらも、その部屋へと足を踏み入れる。
 そこは出場選手のための控え室だった。明かり取りは壁に小さなものがひとつきりで薄暗く、おまけになんとなく汗臭い。壁際には荷物を置いておくためのロッカーと、簡易的なものながらベッドもいくつか設えてある。レナは忍び足で、慎重に奥へと進んでいく。すると、突然二段ベッドの陰から細い手が伸び、レナの腕をつかんで部屋の隅へと引き寄せた。
「きゃ!」
「しーっ!」
 セリーヌは人差し指を口許に立てた。そう、それはセリーヌだった。
「セリーヌさん、こんなところでなにやってるんですか?」
 レナが小声で聞いた。
「決まってるじゃない。隠れてるんですのよ」
「いったい、なにがあったんですか? 外は大騒ぎですよ」
「あー、それはね……」
 セリーヌは面倒そうに頭を掻いて、そっぽを向く。
「ちょっと、薬の実験をしたのよ」
「薬?」
 レナは嫌な予感がした。
「そう。偶然こういう紙を拾いましてね。面白そうだから作ってみようと思って」
 レナは紙をセリーヌからひったくって、そこに書かれた内容を読んだ。
「『これであなたもモテモテ間違いなし! 効果バツグン【惚れ薬】の調合法』……惚れ薬!?」
「要するに、身体に塗るとそのひとの魅力が増幅するっていう薬ですわね」
「まさか、セリーヌさん、自分に使ったんですか?」
「そりゃ、使うとしたら自分以外にいないでしょ。でもまさかこんなに効き目が強いとはね。異性だけでなく、同性にまで好かれてしまうなんて」
「もう! のんきにしてる場合ですか。外は大変なことになってるんですよ。セリーヌさんを捜して大勢のひとが……」
「だから、ここに隠れているんですのよ。もう少ししたら効果は切れるはず……って、レナ?」
 気がつくと、レナの表情が変わっていた。とろんと微睡むような瞳で、セリーヌを見つめている。
 まさか。セリーヌの顔から血の気が引く。
 レナはいきなり彼女の両腕を捕まえ、猫撫で声で言った。
「お姉さま、かわいそう。でも、ここなら安心よね。誰にもじゃまされない。ずっとふたりっきり、ね?」
「お、お、おねえさま!?」
 あまりのことに、セリーヌの声が裏返る。身の危険を感じて逃げ場を探すが、どのみち腕をつかまれて身動きがとれない。陶然とこちらを見つめて迫る彼女に、じりじりと後退りする。
「どうして逃げるの? お姉さま、私のことが嫌いなの?」
 しおらしく瞳を潤ませるレナ。これが男に向けられた視線ならば、あっけなく悩殺されること間違いなしなのだが。
「き、嫌いとか、そんな問題じゃなくて、わたくしはそーいう趣味はございませ……あっ!」
 膝の裏になにか固いものが当たって、セリーヌは背中から倒れた。地面にぶつかると思っていた背中が、ずいぶん高いところで止まった。柔らかなマットレスの感触。そう、そこはなんと幸運、いや不運なことに、ベッドの上だったのだ。腕をつかんでいたレナも必然的に、彼女の上に折り重なるようにして倒れてきた。
 レナは、なんとか逃げようとしてもがくセリーヌを腕と脚で捕捉しておきながら、そっと囁きかける。彼女にこんな声が出せたのかと驚くほど、甘く切ない声色だった。
「あのね。お姉さま。私ね、ずっとお姉さまのことが」
「わーっ!! ダメダメ! それはもっと他に言うべきひとがいるでしょう! 健全な女の子が言っていい相手じゃありませんわ!」
「んもう。お姉さまの、いけずぅ」
「いけずって……きゃ、どこ触ってんのよ!」
 艶めかしく手が忍び寄ってきたかと思うと、今度は顔を近づけてきた。
「お姉さま。ここで愛の証を、ね?」
「ダメっ! それもダメ! ちょっと、聞いてるの!?」
 レナの顔が目の前まで近づく。セリーヌの表情がこわばる。何気に人生最大のピンチである。
 鼻先がかすめた。いよいよ禁断の瞬間が訪れようかという、その直前で、レナの動きが止まった。精気の戻った瞳をぱちくりさせて、セリーヌを見つめる。
「あれ……? 私、なにを……きゃあっ!」
 慌ててセリーヌから離れて、ベッドを飛び降りる。
「ち、ちょっと、セリーヌさん、なにやってたんですか?」
「あなたが言わないでよ」
 セリーヌも起きあがり、ベッドの縁に座りながら、大きくため息をついた。ぎりぎりのところで、薬の効果が切れてくれたらしい。
「はあ……なんとか一線は死守しましたわ」
「一線って……え? どういうことですか?」
 混乱するレナに、セリーヌは少しやつれ気味ながらも、いつもの調子でからかう。
「ま、あなたの意外な一面も見れたから、今回はよしとしますわ。クロードにも、それくらい大胆になれるといいわね」
 そう言って、彼女はそそくさと控え室を出ていった。レナは首を傾げて、その言葉を頭の中で繰り返してみた。
「クロードにも……? ちょっと、セリーヌさん、それ、どういう意味ですか!?」
 レナも後を追って駆け出す。控え室には、乱されたベッドばかりが、嵐の後のようにそこに佇んでいた。
「なんで逃げるんですか、セリーヌさん」
「あなたに追っかけられたら逃げるのが、癖になってしまったんですのよ」
「どうしてですか」
 無人の部屋に響く、ふたりの言い争う声はだんだんと小さくなり、やがて消えた。


   PANIC10 神聖美少年ロマンセ

     『怪盗633B参上』


 何やらここに蠱惑《こわく》的なエピソードが書かれていたようだが、この小説には相応しくないと判断した故、私がもれなく頂戴した。全国のショ……美少年愛好家の諸君は残念だったな。まあ、君らにこの内容はまだ早いということだ。精進したまえ。

 ちなみに、「あんた一体何者?」という疑問をお持ちの読者諸君は、以下のサイトの『少年探偵レオン』にて熟知されたし。子猫くんの活躍は私も眼福《がんぷく》の至りである。
 http://andante.halfmoon.jp/sonovel/

 さて、それでは参ろうか、子猫くん。ふふ、私の腕の中で眠っているのか。ういやつめ。今夜もたっぷりと可愛がってやるからな……。

(※彼が抱いているのは人形です。自作の等身大レオンきゅん人形。真性変態のやることですからご容赦ください)


   PANIC11 患者3:ピンクバーニィ

「この子の症状はちょっと微妙でしてね」
 と、係員。
「ふだんは何ともないようなんですけど、どうかすると痛そうな顔をするんですよ。いちおう、傷とか腫れ物がないか一通り調べたんですが、特に見あたりませんでした」
「なるほど」
 ノエルもバーニィの身体のあちこちをしらみつぶしに点検していったが、やはり痛みの原因となるようなものは見あたらなかった。耳の中にも、口の中にも、とりたてて異常はない。
「確かに外傷はありませんね……とすると、胃や腸などの内臓か、もしくはアレルギー症状かもしれません。なにか、痛むときの状況で、気がついたことはありませんか?」
「うーん。そうですねぇ……ああ、そういえば、痛そうな顔をするのは食後が多いような気がしますね」
「食後?」
「ええ」
 ノエルには何か思い当たるふしがあったようで、バーニィの背中側に回って、足許から何かをのぞき込むような仕草をした。
「ああ、やっぱり」
「なんだったんですか?」
 係員が聞くと、ノエルはそのままの体勢で。
「これは、痔ですね」
「……痔ですか……」
 バーニィは両手で顔を覆って、ぽっと赤くなった。


   PANIC12 セシル……かあ、さん。

 重そうな金属の腕がディアスの頭に振り下ろされる。ディアスは地面に這いつくばって避け、そのついでに剣で敵の脚を薙ぎ払った。バランスを崩す金属の塊に、ディアスはすかさず立ち上がってケイオスソードを叩きつける。金属片や何かの部品が飛散する。すぐに間合いを取ろうとその場を離れかけたディアスに、敵は腕を突き出して銃弾を乱射した。弾は頬をかすめ、腕や脚を撃ち抜いた。それでもディアスはその場に両足を踏ん張って立ちつくし、攻撃が止んだところをすかさず反撃に転じた。
「疾風突!」
 猛然と剣を突き出したまま、敵に体当たりを食らわした。突き飛ばされた敵はいびつなボールのように地面を転がり、ぐしゃりと鈍い音をたてて壁にぶつかった。あとには大きく変形した金属の塊が残っているのみ。それも、程なくしてすうっと消えた。
「なんと、ついにディアス選手、四十九匹目までも撃破しました! さあ、いよいよラストの五十匹目だ! 前人未踏の完全制覇はなるのか!?」
 ディアスは喘ぐように激しく息を切らした。撃ち抜かれた腕と脚がズキズキ痛む。意識が朦朧として、少しでも気を抜いたらそのまま倒れてしまいそうだ。しかし、ここで倒れるわけにはいかなかった。あの日から、俺は決して負けない、倒れないと誓ったのだ。こんなところで、誓いを破るわけにはいかない。
 最後の敵が前方に出現する。ディアスは面《おもて》を上げ、敵をきっと睨んだところで、唖然とした。
 そこには、見上げるばかりの巨大な怪鳥が、フィールドを覆いつくすほど大きな翼を広げて浮かんでいた。それを目の当たりにした瞬間、ディアスは全身から力が抜けていくのを感じた。
「冗談じゃ……ない」
 そうして、ぷつりと糸が切れたように、戦わずして彼は倒れた。



 お楽しみいただけたかな?
 それじゃ、今回はこのへんでGOOD−BY! 引き続き本編を楽しんでくれ。
 ご静読ありがとう。



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【ひとくち解説】
 料理の鉄人、大好きでした。実況と解説の掛け合いとかアイスクリーマーが壊れるところとか(笑)、それなりに再現はできたんじゃないかと思います。家庭料理の挑戦者が勝利するというのは実際に番組でもあったんですよね。陳建一vs小林カツ代だったかな。今回のもその対決を参考にしてます。
 あと、本を作る前の内容チェックの際に無理やり某怪盗をねじ込んでみました。まァ、この回は何でもアリですから。
posted by むささび at 15:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説SO2
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