2009年01月15日

小説 STAR OCEAN 2 〜 ネーデ編 第四章(1)

第四章 告白 ―愛しき新生、哀しき神曲―


   1 RENA PANIC! 〜ファンシティ〜

「遅いねェ。いったい何をグズグズしているんだか」
 業を煮やしたミラージュが口走った。ナールも、レナたちもずっと押し黙ったままだった。
 彼らはアームロックのミラージュの家に戻っていた。研究室の手前にあるがらくたの散乱する居間で、ミーネ洞窟に出かけた五人の帰りを待っているのだ。日はとうに暮れ、膝丈の高さしかない机に置かれたランプの灯りばかりが、もの寂しく部屋を照らしあげている。ソファに座ったミラージュは吸っていた煙草を灰皿に放り投げ、傍らにあったグラスの水をそこに注いだ。いくつものちびた煙草が灰皿の中で浮き上がる。汚い沼に漂う睡蓮《すいれん》のように。
「私、ちょっと見てきます」
 そう言って、レナは足早に家を出ていく。この場の重苦しい空気が、どうにも堪えがたかったのだ。
 夜の帳の降りたアームロックの上空は、どんより曇っていた。空を覆いつくす分厚い雲の白さばかりが、闇の中で見る白骨のように不気味に目立っている。今にも降りだしそうだ。けれど、家に戻る気はなかった。西の空に目を見張らせながら、人気のない大通りをひとり、歩いていく。
 風はいくらか湿気を含んでいた。道沿いにずっと続く街灯の明かりが人魂のように皎々《こうこう》と輝く。人家の窓から洩れる明かりも燐光ほどに弱々しい。
 亡霊の街みたいだ。レナは思った。死人の栖《すみか》にひとりだけ生きた人間が迷い込んでしまったようで、歩くうちにだんだん心細くなってきた。けれど、歩みはやめない。
 細かい雫が彼女の手の甲をかすめた。レナは空を仰ぐ。いよいよ雨が降りだしたのだ。それでも彼女は引き返そうとはしなかった。雨は次第にその勢いを増す。大粒の雫が髪に絡みつき、服を濡らし、靴に染みこんでいく。骨まで凍えそうなほど冷たい雨だったが、どこかで雨宿りしようという気もなく、むしろ甘んじて雨に打たれているような趣すらあった。
 幼い頃から、彼女は他人ほど雨というものを嫌っていなかった。雨に打たれて濡れることを不快とは思わなかった。どしゃ降りの日でも構わずに外で遊んで、泥だらけになって帰ったら、ウェスタにさんざん叱られたこともあった。けれど、それは子供としては当たり前のことではなかったか? 誰しも子供の頃は雨を嫌がったりはしなかったはずだ。それが、成長するにつれて、どうしてみんな雨を嫌いになってしまったのだろう。レナにはそちらのほうが理解できなかった。こどもからおとなへと成長する過程で、ひとはいろいろなものを失くしていくからだろうか。残酷なまでの純粋さも。無知からくる優しさも。そして、雨に打たれても平気だったことも。だとしたら、私はまだこどもだということなのだろうか?
 そんなことを考えながら歩いていると、不意に、西の空にひとつの影を見つけた。サイナードだ。降りしきる雨の中をこちらに向かって飛んできている。レナはすぐに、街の入口へと駆け出した。
 彼女が街の入口から外に出たときには、既に目の前にサイナードが降り立っていた。その背中からひょっこり顔を出したのは。
「ボーマンさん!」
「よう、レナか」
 ボーマンは憔悴《しょうすい》した笑顔で応えた。
「悪いが、ちょっくら手を貸してくれねぇか」
「え?」
 そこでようやく異変に気づいた。回り込んでサイナードの背中を覗くと、そこにはひどく傷ついた仲間たちが蹲《うずくま》り、あるいはうつぶせに倒れていた。
「なにがあったんですか?」
「ごめんなさい。わたくしのミスですわ」
 大きな麻袋を抱えて降りてきたのは、セリーヌ。彼女は見た目ほどに傷は深くないようだ。
「呪紋の威力が大きすぎて、洞窟が落盤してしまいましたのよ。まったく、わたくしとしたことが迂闊《うかつ》でしたわ……。外にいたサイナードが壁を壊して助けてくれなければ、今ごろ全員生き埋めになっていたわ」
 額に手を当ててうつむくセリーヌ。その表情は慚愧《ざんき》と後悔に満ちていた。
「それでも、ちっとは落盤に巻き込まれちまってな。エルネストはオペラを庇って片足を潰された。ノエルも落ちてきた岩に頭をぶつけて、気を失ったままだ。悪いがレナ、治療頼むよ」
 レナはすぐに頷いて、治療にかかった。オペラとふたりでエルネストをサイナードから降ろし、踝《くるぶし》から下が痛々しく変形してしまった足に手を翳《かざ》して呪紋を唱える。それが終わると、今度はボーマンと協力してノエルを降ろした。彼の手首を取って脈拍を確かめ、岩をぶつけたという後頭部の具合も確かめた。
「ノエルさんは大丈夫です。ショックで気絶してるだけ。エルネストさんもひとまず応急処置はしましたけど、その怪我だと、これから何回かに分けて治療をしないといけません。……とにかく、ミラージュさんの家に戻りましょう」
「そうだな」
 ボーマンは天を仰いだ。こんな雨の中でたむろしていても仕方ないのだ。
「レナもずいぶん腰が据わってきたな。前は少し治療するだけでもドタバタしながらやってたのに」
「やめてくださいよ」
 レナの頬に赤みがさした。ボーマンはそんな彼女を見て笑みを洩らすと、ノエルを担いで街の入口へと向かっていった。
 レナも彼らに続いて街に戻ろうとしたが、ふと思い出して、サイナードの前に歩み寄る。
「ありがとうね。みんなを助けてくれて」
 立派な鼻面を撫でてやりながら、その手に少しだけ紋章力を送り込んだ。回復呪紋《ヒール》の淡い光が、雨風に冷えきったサイナードの躯を温かく包みこむ。回復呪紋はただ傷を癒すためのものじゃない。呪紋を施したものと心を通わせ、お互いにわかりあうこともできるのだ。そのことを知ったのは、そう、このサイナードと出会ったときだった。
 サイナードが首を擡《もた》げて、礼を言うようにひとつ鳴いた。レナはそれに笑顔を返してから、雨でぬかるんだ道を街に向かって走っていった。

「まァ、なんにせよ、レアメタルは手に入ったわけだ」
 研究室の大きな画面を背にして、ミラージュが言った。
「じゃ、さっそくだけど、あんたたちの武器を預かるよ」
 唐突な言葉に、ボーマンたちは面妖な表情でミラージュを見る。
「あれ? どうしたの?」
「ミラージュ。まだみなさんには説明していないはずだろう」
 ナールが言うと、ミラージュは首を傾け指でこめかみを押さえるようにして、考えるような素振りをした。
「そうだっけ? じゃ、説明するよ。つっても、そんなに大した話じゃないんだけど」
 相変わらず飄々《ひょうひょう》とした口調で、ミラージュは続ける。
「要するに、あんたたちの武器も反物質化してやろうということさ。『剣』に比べれば簡易的な措置に過ぎないのだけど、それでも反物質だからね。武器としての性能は格段に向上するよ。そのための『装置』もこのデータの中に設計図があった。ただし、それにはあんたたちの武器にもちょっとした細工を施す必要があってね。言うなれば、その『装置』が発する信号を受信する『アンテナ』のようなものを取りつけるんだ。『アンテナ』から受信した信号によって武器が反物質化するって仕組みだね。……わかったかい?」
 わかったようなわからないような。彼らは神妙な顔つきのまま、曖昧に頷いてみせた。
「まァ、そういうことだ。武器を俺に預けてくれ。一晩で返すから心配いらないよ」
 言われるまま、彼らはめいめいの武器をミラージュの足許に置いた。ボーマンはナックル、オペラはランチャー、そしてエルネストは鞭を。セリーヌの杖はそれ自体で敵を殴るわけではないので反物質化の必要はない。
「ようし。これで材料はすべて揃った。後は俺の仕事だ。みんなご苦労だったね。三人の武器は明日返すけど、『剣』と『装置』の完成は三日後だ。それまではゆっくり身体を休めて、十賢者との決戦に備えてくれ」
「え? ちょっと待ってください」
 と、クロード。
「身体を休めてって……三日後まで、僕らができることはないんですか?」
「ええ。特にありません」
 あっさりと、ナールが答えた。
「そんな。ここまできて休んでなんていられませんよ。やることがないと言うのなら、僕らで自主的に特訓でもします」
「特訓ですか……まあ、みなさんがそうしたいというならそれで構いませんが……」
「市長。どうせならあれ使わせたら? ほら、ファンシティの」
 そう言って、ミラージュはナールと小声で相談を始めた。
「なに話してるんだ?」
「ふたりでコソコソと、怪しいですわね」
 ボーマンとセリーヌが眉を顰《ひそ》める。
「……では、そいつを使うとしようか」
 しばらくしてナールが頷き、こちらに向き直った。
「お待たせしました。みなさんには特訓にうってつけの場所を用意しますので、明日はファンシティにお越しください」
「ファンシティ?」
 オペラが訊き返すと、ミラージュがそれに答えた。
「ファンシティってのは……ああ、そこの三人はさっき行ったから知ってるだろうけど、ここから北に行ったところにある、娯楽施設ばかりが集まった街だ。要するにテーマパークだね」
「娯楽施設なんかで、特訓ができるんですの?」
「ええ。詳しいことは明日お話しします。いろいろと準備があるので、明日の夕方、ファンシティの闘技場に来てください。それまでは、街の中で休むなり遊ぶなりしていて構いませんので」
「遊ぶって……こんな切羽詰まったときに」
 クロードが口ごもる。
「いいんじゃないの。このところずっと戦い詰めだったろ? 決戦の前に気分転換ってのも悪くないと思うよ。……そら、これやるよ」
 ミラージュは懐から一枚のカードを出して、クロードに手渡した。見ると、その長方形のカードには大きな文字で『ファンシティ N.P.I.D.』と書かれている。その下には『一回の入場につき十名まで有効』と注意書きもされていた。
「何ですか、これ?」
「ファンシティのフリーパス券だよ。街に入るには入場料がいるんだけど、それがあればタダだ。明日一日、思いきり羽を伸ばしてくるんだね」
 ミラージュは悪戯っぽく笑ってみせた。背筋が寒くなるくらい、色気のある笑い方だった。





      あ〜、あ〜。
             マイクてーすっ。

                     ……いいかな。よし。

            ごほん。


 夢と希望と享楽の街、ファンシティにようこそ!
 ここはまさしくこの世の楽園、夢の国。日頃の嫌なことやムカつくことは全部忘れて、ストレスまとめて発散しちまおう! 上司に叱られたお父さんも、夫婦ゲンカをした奥さんも、かーちゃんに小遣いを減らされたおぼっちゃんも、息子の嫁にないがしろにされたオジイちゃんも、姑にいびられた若奥様も、ここに来ればみんなみんな、幸せハッピー全開さ。堅苦しいのは禁中御法度ノンノンノン。この街はすべてが娯楽、すべてがお遊び、すべてがジョークだ。だからみんなも、肩の力を抜いて思う存分楽しんでほしいのさ。
 ──けれど、だ。それによる弊害といっちゃなんだけど、ひとつだけ、みんなに注意してほしいことがある。よく聞いてくれ。
 ……え? 誰に言ってんのかって? そりゃ、キミだよ、キミ。そこで今、この小説を読んでいる、キ・ミ。
 いいかい。ここからのお話は他とはまったくノリが違う。言ってしまえばただのパロディー、もっと言えば悪ふざけだ。だから、そういうのが見たくないひとは、この先は読まない方がいい。物語の世界観を、あるいはキャラクターのイメージを壊されたくないなら、ここはさっさと読み飛ばして、すみやかに次の話へ進むことをおすすめする。ちなみに、このお話の中には物語の進行に関係するような事柄は一切出てこないから、その点は心配しなくていい。心置きなくすっ飛ばしてくれ。
 わかったね。それじゃ、選んでくれ。

■私はジョークに理解のある大人なので、この先に進む。
 はい  →そのまま次の段落へ
 いいえ →すっ飛ばして「2 仇敵」へ



 ……いいんだね?
 ……ほんとうに?

 ……オーケー。それじゃ、いってみようか。
 Let's walk in a parade !



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【ひとくち解説】
 また文字数エラーが出たので2つに分けます……。
posted by むささび at 15:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説SO2
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